漢方薬でダイエットというと
防風通聖散や防已黄耆湯を思い浮かべる方も多いと思います。
保険で肥満に適応があるのは防風通聖散、防已黄耆湯、大柴胡湯の3つがあり
中でも防風通聖散と防已黄耆湯はダイエット漢方薬として有名です。
病院で出される医療用漢方としても処方されますし、
ドラッグストアなどでも精力的に販売されています。
ナイシトールやコッコアポといった名前を聞いたことがある方も多いと思います。
上記の漢方薬は内臓脂肪に効くなどと過剰な広告がなされています。
では防風通聖散と防已黄耆湯がダイエットに効果があるのかについてですが
実際のところは両方ともあまりおすすめできません。
なぜおすすめできないかについて説明していきたいと思います。
まず防風通聖散ですが、医療用漢方の添付文書には
「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:
高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」
と書かれてあります。
中医学的に言うと疏風解表、瀉熱通便の効能があります。
体の中に溜まっている熱毒を出すような作用で
本来は皮膚疾患、炎症性疾患、癌に対して
他の処方と組み合わせて用いられることが多い処方です。
日本の女性のように貧血傾向で胃腸が弱く、
甘いものや水分の摂りすぎで体重が増えてしまっている方が
防風通聖散を飲むと弱ってしまうことが多いです。
防風通聖散の副作用として肝障害も多数報告されています。
論文では何人に効果があったみたいな研究報告もありますが
それは効果がなかった人、合わない人について
その後は追跡されておらずそれが問題かと思います。
防風通聖散がダイエットにつかえそうな人のイメージととしては
元気でなんでも食べて太っている方、
わかりやすくいうとテレビでたまに出てくる海外のとても太った女性みたいな感じでしょうか。
日本の女性にはあまり見かけないタイプです。
日本の女性で痩せたという方がいらっしゃったら
それは痩せたというより下剤の飲みすぎでやつれたという感じかと思います。
続いて防己黄耆湯についてですが
先程、日本の女性は甘いものや水分の摂りすぎで
体重が増えてしまっていると書きましたが
そういう方のダイエットには胃腸を強くし水分代謝を上げることがおすすめです。
防已黄耆湯は益気去風、健脾利水の効能があり
体を元気にして体に溜まった余分な水分を排出してくれます。
日本の女性のダイエットにはとても良さそうですが
実は日本で発売されている防已黄耆湯は実はあまり良くありません。
防已黄耆湯は防已、黄耆、白朮、甘草、生姜、大棗の6つで構成されているのですが
この処方の中心である利水作用のある一番重要な防已が
日本では別の生薬が使われているため利水効果があまり強くないのです。
本来は漢防已や木防已といった生薬を用いるのですが
日本で用いられているのはツヅラフジ科のオオツヅラフジの蔓性の根茎および茎、
いわゆる中国でいうところの清風藤を用いており
利水作用、水分を排出する作用がとても弱いのです。
日本で販売されている全ての防已黄耆湯が清風藤を用いているようです。
そのため利水に使うには効果が足りないと思います。
では大柴胡湯はどうなのか?
添付文書での[効能又は効果]の記載は
「比較的体力のある人で、便秘がちで、上腹部が張って苦しく、
耳鳴り、肩こりなど伴うものの次の諸症:
胆石症、胆のう炎、黄疸、肝機能障害、高血圧症、脳溢血、
じんましん、胃酸過多症、急性胃腸カタル、悪心、嘔吐、食欲不振、
痔疾、糖尿病、ノイローゼ、不眠症」
となっています。
大柴胡湯は柴胡、黄芩、白芍、半夏、生姜、枳実、大棗、大黄
の8つの生薬から構成されており
間質性肺炎などの副作用で有名な小柴胡湯の方意が含まれており
体の強くない日本の女性がダイエットで長期服用できるような
お手軽な漢方薬ではないのです。
肝胆の疾患などを伴う場合などに主に用います。
防風通聖散や防已黄耆湯、そして大柴胡湯
世間ではダイエットの漢方薬として有名ですが
日本の漢方家でダイエットに使われる先生は
あまりいらっしゃらないんじゃないかと思います。
売り上げ目的、広告宣伝で本来の用途とは異なって有名になった漢方はいくつかあります。
漢方薬は体質、体の状態に合っているかどうかがとても重要ですので
専門家へのご相談後服用されることをおすすめします。
またの機会に、安全にダイエットに使える漢方について書きたいと思います。
執筆者
井上 貴文
薬剤師、国際中医師、統合医療生殖学会学術理事
漢方薬局 柚花香房
大阪府吹田市山田西3丁目57番20号ピアパレス王子101
問い合わせ:06-6816-9677
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