突発性難聴の女性 突発性難聴の女性
突発性難聴
柚花香房マーク

突発性難聴について

Sudden deafness
  • 突発性難聴の女性

突発性難聴は近年増加している疾患で、突然耳が聞こえなくなる原因不明の聴力障害です。有名な歌手の方が突発性難聴になられたというニュースも耳にしたこともあると思います。ただ原因不明の聴力障害で詳しいことはわかっておらず、有効な治療方法も確立されていません。難聴の改善・悪化の繰り返しはなく、左右どちらか一方におこる場合とされていますが、両耳で起こる場合や再発するといった例も報告され、まだまだ発展途中の疾患と言えます。

東洋医学では難聴・耳鳴りについて古くから研究されており明確な治療法が存在する分野でもあります。

突発性難聴とは

突発性難聴とは突然におこる原因不明の感音難聴で、前触れなくある日突然難聴を生じます。突然耳が聞こえなくなり、聴力低下とともに耳鳴りや耳閉塞感、めまい、吐き気などの症状を伴うことがあります。多くの場合は、片方の耳だけに起こります。両方の耳に起こるケースも報告されています。好発年齢は30~60代で特に50歳代が多いとされていますが、子供から高齢者までどの年齢の方でも発症する可能性があります。日本では患者数は年間1万人に1~3人ほどとされていましたが近年増加しています。

突発性難聴の原因

突発性難聴は、何らかの原因で蝸牛のコルチ器を構成する有毛細胞が変性し機能低下することによって生じると考えられています。原因はまだ明らかになっていませんが、循環障害説、ウイルス感染説などが考えられています。最近では、転写因子NF-κBを含めた細胞内ストレス制御機構の異常亢進が関与しているという報告もあります。

内耳循環障害説:有毛細胞を栄養する血管に攣縮などが起こり、十分に血流がいかなくなり細胞に十分な酸素が供給されなくなり難聴になる。
ウイルス感染説:ムンプスウイルス、単純ヘルペスウイルスなどが感染し、有毛細胞が障害される。

突発性難聴の検査

まず、発症前後の状況を詳しく問診し、併せて既往歴(糖尿病や高血圧など)、服薬歴、耳の手術歴、職業なども確認し、症状の似通った他の疾患(メニエール病、聴神経腫瘍)を除外します。また耳鏡で外耳道や鼓膜に異常が無いことを確認し、聞こえの程度を純音聴力検査で評価します。純音聴力検査はどのくらい小さな音が聞こえるか、7つの高さの純音を使って「気導聴力検査」「骨導聴力検査」の2種類から聞こえの程度を確認します。めまいを伴う場合は眼振検査を行います。聴神経腫瘍は突発性難聴とよく似た症状を示すものがあるため鑑別が必要で、MRIや聴性脳幹反応(ABR)などを行います。

突発性難聴の病院での治療

突発性難聴の効果的な治療法は、現在までに確立されていません。
外来での薬物療法による対症療法を治療の基本として、高度難聴では入院治療が行われます。
他にもステロイド鼓室内投与や高気圧酸素療法があります。

薬物療法
副腎皮質ステロイドの内服を中心に、代謝改善薬、循環改善薬、抗凝固薬、浸透圧利尿薬、ビタミン製剤などを組み合わせます。うまく難聴が改善しない場合には1週間程度ステロイドの点滴を行います。
ステロイド鼓室内投与
専門的手技を必要とし、難聴側の鼓膜に注射針を穿刺し、鼓膜の内側に直接ステロイドを注入します。
高気圧酸素療法
大気圧よりも高い気圧化状態にし、通常よりも高濃度の酸素を供給することで全身の酸素化不足や治癒の促進を図る治療法です。

適切に治療を行った場合でも、完治するのは1/3、なんらかの改善があるのは1/3、全く改善しないのが1/3とされています。発症から1か月程度で内耳障害が不可逆的なものになり症状が固定してしまうため、発症から1~2週間以内に治療開始することが重要となります。

診断基準

下記診断基準において、全事項をみたすものを対象とする。

主症状

  1. 突然発症
  2. 高度感音難聴
  3. 原因不明

参考事項

  1. 難聴(参考:純音聴力検査での隣り合う3周波数で各 30dB 以上の難聴が 72 時間以内 に生じた)
    • (1) 急性低音障害型感音難聴と診断される例を除外する
    • (2) 他覚的聴力検査またはそれに相当する検査で機能性難聴を除外する
    • (3) 文字どおり即時的な難聴、または朝、目が覚めて気づくような難聴が多いが、数日をかけて悪化する例もある
    • (4) 難聴の改善・悪化の繰り返しはない
    • (5) 一側性の場合が多いが,両側性に同時罹患する例もある
  2. 耳鳴

    難聴の発生と前後して耳鳴を生ずることがある

  3. めまい、および吐気・嘔吐

    難聴の発生と前後してめまい、および吐気・嘔吐を伴うことがあるが、めまい発作を繰り返すことはない

  4. 第8脳神経以外に顕著な神経症状を伴うことはない

突発性難聴の重要度分類

重症度 初診時聴力レベル
Grade1 40dB 未満
Grade2 40dB 以上、60dB 未満
Grade3 60dB 以上、90dB 未満
Grade4 90dB 以上

注1 標準純音聴力検査における 0.25kHz、0.5kHz、1kHz、2kHz、4kHzの5周波数の閾値の平均とする。
注2 この分類は発症後2週間までの症例に適用する。
注3 初診時めまいのあるものでは a を、ないものでは b を付けて区分する(例:Grade3a、Grade4b)

突発性難聴・聴力回復の判定基準

治癒(全治)
  1. 0.25kHz、0.5kHz、1kHz、2kHz、4kHz の聴力レベルが 20dB 以内に戻ったもの
  2. 健側聴力が安定と考えられれば、患側がそれと同程度まで改善したとき
著明回復
上記 5 周波数の算術平均が 30dB 以上改善したとき
回復(軽度回復)
上記 5 周波数の算術平均が 10~30dB 改善したとき
不変(悪化を含む)
上記 5 周波数の算術平均が 10dB 未満の改善のとき

(厚生労働省「難治性聴覚障害に関する調査研究」, 2015 年改訂)

漢方における
突発性難聴の捉え方

thinking
突発性難聴の漢方
  • 風熱襲肺

    片耳あるいは両耳の難聴。低音が聞こえにくいために自分の発声が大きくなり、風が吹くような耳鳴りがし、初期は鼻水、鼻づまり、耳痛、耳の閉塞感、発熱、頭痛などをともなう。

  • 肝火

    怒りなどによって肝胆の気が経に随って上逆し、清道を犯したため生じる。発症が急速で難聴が重度なのが特徴で、耳鳴りも鐘の音や雷鳴のように大きく、耳が張って痛む、耳閉感、口が苦い、顔面紅潮、充血などの症状を伴うことがある。

  • 肝陽上亢

    聴力減退、耳鳴り、めまい、頭が張って痛む、顔面紅潮、不眠、口渇などの症状をともなうが、発症が緩慢で難聴・耳鳴りとも症状の程度に増減がある。

  • 肝血虚

    セミの鳴き声のような耳鳴りが大きくなったり小さくなったりし、聴力減退、めまい、目の乾燥感、視力低下などを呈する。血の不足や病気による陰血の消耗のため生じる。

  • 腎陰虚

    次第に聴力が減退する。かすかな耳鳴りと頭のふらつき、めまい、不眠、口渇、ほてり、イライラ、腰や膝がだるく痛いなどの症状を呈する。年齢や過労、睡眠不足などによる腎の低下が原因。

  • 腎陽虚

    慢性的な聴力減退と耳鳴り、冷え、腰・膝の痛み、倦怠感、尿量が多いなどの症状を呈する。

  • 心腎不交

    心と腎のバランスの乱れ。聴力減退、耳鳴り、焦燥感、動悸、健忘、不眠、寝汗、尿が濃いなどの症状を呈する。。

  • 脾胃気虚

    胃腸が弱ることによって起こる難聴。難聴・耳鳴りが疲労によって増悪し、倦怠感、食欲不振、膨満感などの症状を呈する。

  • 痰火

    両耳がゴウゴウ鳴ってはっきり聞こえず、耳の閉塞感をともなう。ふらつき、頭重感、胸が張って苦しい、痰が多い、大小便がすっきり出ないなどの特徴がある。

  • 気滞血瘀

    情緒の抑うつによる肝気鬱結により、気血が停滞して発生する。突発的な難聴・耳鳴りを生じ、イライラ、頭痛、ふらつきなど全身的な気滞血瘀の症候をともなう。

漢方治療について

treatment
  • 突発性難聴の改善
  • 漢方薬

汎用処方

桑菊飲、当帰竜薈丸、天麻鈎藤飲、補肝湯、四物湯加牡丹皮・山梔子、耳聾左慈丸、肉蓯蓉丸、天王補心丸、交泰丸、六味丸、補中益気湯、二陳湯加味、通竅活血湯など。

急性期と寛解期での治療は分かれます。急性期は、聴力が不可逆的に失われてしまうか、進行を食い止め回復に向かえるのかの瀬戸際です。牛黄、麝香などの開竅薬を用いて多めの量の漢方薬を飲んでいただきます。とにかく迅速にしっかりとした治療ができるかが鍵を握ります。緩解期では聴力に関係する体の腎や気を補う漢方を中心に処方を組み、回復や予防に努めます。


最後に

finally
  • 柚花香房スタッフ
  • 大阪の漢方薬局

突発性難聴の治療でとにかく大切なのが、治療開始のスピードです。

早ければ早いほどきれいに治り聴力も元通りに回復しやすいです。発症から1か月以内に来ていただければ元通りの聴力になる確率は高いです。

ですが実際に突発性難聴=漢方とはすぐに結びつかないのか、すぐに来られる方はあまり多くはありません。病院で一通りの治療をし高気圧治療をし、そして鍼灸にも通い、それでも治らなければ初めて漢方にという方がとても多いです。

発症から1年以内くらいであれば聴力も回復する可能性はありますが、数カ月、半年、1年と時が経つごとに回復しにくくなってきます。

発症するとまず耳鼻科を受診しステロイド治療を始められると思いますが、病院のお薬と漢方薬との併用は可能ですので、病院での治療開始と同時にできるだけ早く相談にお越しになることをおすすめします。

TOP